アナログ時計はいつデジタル時計になったのか

「アナログ時計はいつデジタル時計になったのか」と言われたら、普通は「そうだよね確かにアナログ時計の後にデジタル時計は発明されたよね~」と思うことだろう。それは確かにそうなのだが、今から話すのはその話ではない。実は、我々がアナログ時計と呼んでいるものは、実は情報学的にはデジタル時計なのだ。だから、もっと根源的な意味で、アナログだったものがいつデジタルになったかという話をしたいと思う。

 

ここでひとまず、アナログ情報とデジタル情報の違いを確認しておこう。アナログな情報というのは、連続な情報のことで、細かく見ていけば無限の情報量を引き出すことが出来るもののことだ。それに対してデジタルな情報とは、そうしたアナログの情報をある閾値で上か下か分けてしまって、持っている情報の量を確定させたもののことだ。エタノールを使った温度計をイメージしてみよう。エタノールの温度計は、無限に細かく見ていけば、実際には目盛りにピッタリは一致していないはずである。その状態はアナログ情報だ。それを人間が、どこかの目盛りに一番近いと判断して、その目盛りの値を読み取って、「36.2℃」などと決めれば、それはデジタル情報になっている。デジタル情報であるということは、人間の観察が入った後の情報だと考えることができる。

 

我々が「アナログ時計」と呼んでいる時計について考えてみると、あの時計は秒針が「カチッカチッ」っと、ある秒とある秒の間の状態を持たずに動いている。したがって例えば、アナログ時計で0.1秒といった1秒より細かい時間を測ることは出来ない。デジタル時計ではどうかというと、もし時間の最小単位が0.1秒だったとすれば0.1秒は測ることが出来るが、だとしてもそれより細かい0.01秒は測ることは出来ない。そういう意味では、この二つは細かさが違うだけで、どちらもデジタル時計なわけだ。

 

では本当のアナログ時計とはどんなものかというと、例えば日時計は本当のアナログ時計だ。見た目は一般的なアナログ時計とほとんど同じだが、それとは違って、間の状態を見ようと思えば見ようとしただけ持っているからだ。

 

さて、では冒頭の疑問に戻って、アナログ情報がデジタル情報になった瞬間について考えてみよう。原理が分かりやすいものとして、クォーツ時計で考えてみる。クォーツ時計とは、水晶を使った時計だ。水晶振動子と呼ばれる素子があって、これに電気を流すと一定速度で規則正しく振動する。ちなみに一秒間に32,768回振動するらしい。それをカウントして、32,768回振動するごとに一秒に換算して秒針を動かせば、時計として使えることになるというわけだ。

 

しかしこう考えるといつアナログ情報がデジタル情報に変わったのかは良く分からない。電気を流された水晶は、最初から「 32768分の1秒」というデジタル情報を作り出しているような気がする。自然現象が最初からデジタル情報を作り出しているなら、人間が観察するからデジタル情報になるという原則に反するではないか?

 

でもそうではない。こう考えてみよう。「もともと『振動』などという現象は存在していない」のだと。電気を流した時に、水晶はただ「動く」のであり、その動きが人間には同じ動きを繰り返しているように見えたので、それを人間が「振動」と呼ぶことにしたのだ。このとき、元々の動き自体は、無限に細かく見て行けば毎回ほんの少しずつは違うものになっているはずだが、その細かな差異は無視して同じ動きだと見なすことで、「振動」が「1回、2回」とカウントできるようになったのだ。

 

人間が何かを何かだと「見なす」ところが、アナログ情報がデジタル情報になるところなのだ。