縦割り組織は望んで生まれるわけではなく仕方なく生まれる

前回の話の続き。前回は、第一次世界大戦時に、官僚的機構が複雑さの限界を超えて身動きできなくなってしまった、という話。
  

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官僚は縦割りだとよく文句を言われる。では、官僚を縦割りでないようにすることができるだろうか。

 

私は大学の学部生の頃、芸術系サークル連合会(芸サ連)という、サークルをとりまとめる学生組織に入っていた。その組織の執行部と呼ばれる中心メンバーは6人だった。6人でやるにはかなり多い仕事量があったので苦しかったのだが、しかし、人数を増やしたら楽になるか?というと、そうではないだろうなという実感があった。

 

なぜメンバーか6人だったのかというと、これは先輩が言っていたのだが、「大学生が、放課後に週一回集まれる限界の人数が6人ぐらいだから」という理由だった。

 

つまり、やることが多いから仕事を分担しようと思って人数を増やすと、全員が密にコミュニケーションを取れる機会が減ってしまうので、その再確認等のロスが仕事を分担出来て楽になる分を上回る(楽にならない)という判断をしていたのだった。これは、結構正しかったように思う。

 

しかしそれで耐えられないほどに仕事量が増えてしまったらどうするか?と言われたら、やはり人数を増やすしかないのだが、その場合は、組織内に上下関係を作って、必ず執行部ミーティングに居なくてはならない人と、その出席者に話を聞けば無理に参加しなくてもいい人に分けるしかない。それをしないと、たまに人が集まれるときだけしか意見交換や意思決定ができない、いかにも鈍重な組織になってしまう。

 

つまりどういうとことかというと、組織のやるべきことが少ないうちは、全員が意思決定の場に参加する対等な組織が成り立ち、その方が効率もいいのだが、やるべきことが多くなってくると、必要な人員も増えて、そうなると上下関係を作って、部下は他の部署がやっていることについて把握しなくても構わないという形にしないと、とてもではないが組織が回らなくなってしまう。これが縦割り組織が生まれる背景ではないか、ということである。

 

ここでのポイントは、組織はなりたくて縦割り組織になっているわけではないのではないかということである。人数が増えるとコミュニケーションコストは人数に対して指数関数的に増加するので、あるところで限界を迎えて、関係のコネクションを断ち切るしかなくなる。そうしないと人間は複雑化の前にたじろいで身動きできなくなってしまうからである。縦割り組織はそうして「仕方なく」生まれるのであって、最初から縦割り組織になりたい人達が居るわけではない。出来ればお互い対等に密にコミュニケーションをとりたくても、それが許されないのである。

 

冒頭の問いに戻ると、官僚が縦割り組織になっているのは、そうでもしないと身動きが取れないぐらい、仕事量が多く、仕事上関係する相手も多く、複雑なプロセスを経て意思決定をしなくてはならないからではないだろうか。そしてそれを、官僚の各個人の怠慢によってそうなっていると見るのは、官僚ほど複雑な仕事をしていない人達の驕りではないだろうか。また、官僚の各個人にとっても、自分の努力が足らないせいだなどとは思わずに、もっと大きな構造上の問題であると理解する方が、自身の健康にとっても組織にとっても良いのではないだろうか。

 

以上で今回の話は終わりだが、組織が大きくなる時に、あるところから同じやり方では上手く行かなくなるのでやり方自体を変えなくてはならなくなる、というのは結構言われることだと思う。また、個人が問題に対処する時にも、対象の複雑さに応じたやり方がある、という話にもどことなく似ている。その話はまた今度書こうと思う。

 


 

(補足)

ここで「官僚」というのは、象徴的に使っているだけで、「大企業」とか「大手銀行」とか言ってもよく、大きな組織全般に関わる問題と思ってもらってよい。

 

芸サ連の6人という数字は、あくまで大学生の本業である学業やその他サークルやバイトなどがあるうえで、残りの時間で集まれる最大の人数として設定されているので、仕事のようにそれを専業としている場合はもう少し多くなると思われる。有名なものでは、Amazonの「2枚のピザ理論」というのがあって、2枚のピザを食べるのにちょうどいい8人が組織の最小単位として良いとされている。

 

人数が増えると人間関係が指数関数的に複雑になる、って本当だっけ?と自分でも不安になったので改めて考えてみたところ、確かになる。もし、AさんBさんCさんがいて、AとB、BとCみたいに、二者間の関係がどれだけ生まれるかを考えると、それは人数nに対して(n^2)/2にしかならない(行列の半分を想像すると良い)のだが、AとB、AとBとCのように、3人以上の関係をそれぞれ考慮するとべき集合になって、2^nだから指数関数になる。