人はなぜハゲるのか

「人はなぜハゲるのか?」と研究室で後輩たちが話していたので、私がその場で考えて答えたのは、こんな話だった。

 

 

大阪大学の近藤滋先生がネットで公開していたコラムに、シマウマがなぜ縞模様を持っているのか、ということに関する解説があった。ちなみに今はこの話はブルーバックスの「波紋と螺旋とフィボナッチ」という本に掲載されてWeb上からは無くなっている。 

波紋と螺旋とフィボナッチ

波紋と螺旋とフィボナッチ

 

  

シマウマがシマシマなのは、特にメリットがあるからそうなっているわけではない。言ってしまえば、特に理由はないということだ。我々はすぐ生命の仕組みには何か機能的な理由があると考えてしまうが、進化というのは機能を獲得するために能動的に起こるわけではない(そういうことがあるという研究報告も最近割と見かけるようになったが)。ただ、ランダムに変化が起きて、環境の中でその性質が適応的であれば残る、という順番で考えるのが基本的には正しい。つまり、シマウマがシマシマなのは、シマシマであることが「生き残れないほど致命的なデメリットではなかった」ということだ。

  

そうは言っても、シマシマ模様が形成される仕組みに自体には疑問が残る。シマシマというのはいかにも特殊な模様で、このようなものが理由なく発生するというのは受け入れがたい。しかし、意外にも、このようなパターンは単純な仕組みから発生するという。

 

その仕組みとはどういうものかということの詳細を話すと長くなるので(とても面白いのでぜひ本を読むなりして欲しいのだが)、結論を簡単に書くと、動物にとってメリットがあるのは目立ち過ぎない色になることであって、それは明るい色素と暗い色素を細かいパターン(交互にするとか)で並べてその中間色を得ることによって実現しているため、そのパターンの繰り返しの大きさ決めるパラメータが変化することで、縞模様が出現してしまうということらしい。

 

つまり、中間色になるための仕組みが誤作動することで、縞模様という望んでいない目立つパターンが表れてしまっているが、それで絶滅するほどのデメリットにはならなかったのでそのパターンが残ってしまっている、ということのようだ。

 

 

さて、ようやく冒頭のハゲの話に戻るが、恐らくハゲの起こる仕組みもこれと同じで、「絶妙なバランスの上に成り立っている状況においてバランスを少し崩すと目に見える状態変化として表れる」というのがハゲという現象の正体なのだと思う。

  

考えてみると、人間の体毛の生え方というのは他の動物と比べても異例であろう。体毛は全身にはほとんどなく、しかし頭や陰部など限定的な場所にだけは残っている。これがもし全身に体毛がある生き物だったら、少しぐらい「毛薄」で生まれてきても、「毛薄」と認識されるだけで、「毛が生えている所と毛が生えていない領域に目に見える変化が現れる」ことは少ないはずだ(いや、知らないけど円形脱毛とかはありそうだけど、加齢で自然に前線が後退するわけではなさそうな気がする)

  

「髪と髭の境界ってどこにあるんだろう?」と思ったことのある人も居ると思うのだが、もちろんそこに本質的な境界などはなく、分かれて登場するから別物であるかのように感じているだけなのだろう。したがって、頭髪の生えている領域に明確な輪郭があるというのも幻想なのだろう。人によって頭髪の輪郭線に差があるのは、それだけギリギリのバランスでこの輪郭線を保っているということだろう。

  

したがって、そのバランスは安定的ではなく、少しの変化に対して大きな影響を受ける。そしてしかも、その変化が生存にそれほど大きな影響がないからこそ、その性質は残っているのだろう。

  

ということで、その場で話したことは以上。

 

 

余談だが、最近日本人女性の巨乳化が進んでいるらしい。その理由は基本的には食生活の変化として説明されているようだが、それが貧乳の人が子孫を残せず絶滅していっているということではないといいなあ、それも他人事としては面白いけど、と思っている。