授業「情報科学」の参考文献-第1部

第一部のメインテーマは「情報とは何か」でした。その中で、人間が世界を認識するとはどういうことかについて色々話をしました。この話について考えを深めるためには、センサーである身体の仕組み、現象を作り出す脳の仕組み、そして世界を切り取る言葉の仕組み、などの様々な面について見ていく必要があるでしょう。


キーワード:記号論記号学,認識論、哲学、科学哲学、認知科学認知心理学

一覧

本タイトル 著者
進化しすぎた脳 池谷裕二
単純な脳、複雑な「私」 池谷裕二
図解・感覚器の進化―原始動物からヒトへ水中から陸上へ 岩堀 修明
象形文字入門 加藤一朗
レトリック感覚 佐藤信夫
科学哲学の冒険―サイエンスの目的と方法をさぐる 戸田山和久
構造主義科学論の冒険 池田清彦
超解読!はじめてのカント『純粋理性批判 竹田青嗣
はじめての構造主義 橋爪大三郎
ソシュールの思想 丸山圭三郎
姑獲鳥の夏 京極夏彦
  • や:やさしい
  • 難:むずかしい
  • 薦:おすすめ

進化しすぎた脳 / 単純な脳、複雑な「私」/ 池谷裕二

単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

単純な脳、複雑な「私」 (ブルーバックス)

脳学者の池谷祐二さんによる二冊。脳についての授業を高校生にしたときの講義録となっている。元が高校生向けだから凄く分かりやすいんだけど、授業を受けている高校生達も異様に賢くてビビる。二冊は似た内容で続編みたいな感じ。ちなみに「進化しすぎた脳」が先で、そっちだけ図書館にあるみたい。「我々の見ている世界は脳内のイメージ」だとか「意識の前に無意識が動いている」とかそういう我々の認知の基本になるようなことを、ひとつひとつ実験を紹介して分かりやすく説明しています。個人的に好きなのは「人に好かれたかったら、自分がお願いを聞いてあげるより、相手にお願いを聞かせる方が良い」っていう話。自分が相手のために何かしてあげたっていう事実があると、気持ちのつじつまを合わせるためにそれは相手を大切に思っているからだって思っちゃうんだってさ。先生も学生にキツイ課題をやらせた方が好かれるのかな?

図解・感覚器の進化―原始動物からヒトへ水中から陸上へ / 岩堀 修明

我々は五感をセンサーにして世界の情報を得て脳内世界を作っている。じゃあセンサーである感覚器が違ったら世界はどのように見えるんだろう?そういうことを考えるには、感覚器が昔はどうだったとか、他の動物ではどうなのかとか、そういう事がヒントになると思うんですね。例えば「眼が無い動物は何も見えない」というのは本当だろうか。人間は眼の奥に光を感じる細胞があるから世界が見えるわけだけど、その細胞が眼の奥以外の場所、例えば体表にあると何が見えるのだろうか?ミミズとか、そんな感じじゃない?

象形文字入門 / 加藤一朗

象形文字入門 (講談社学術文庫)

象形文字入門 (講談社学術文庫)

授業で紹介した「ネイティブアメリカンの手紙」はこの本で知りました。象形文字の話は、絵文字が文字に代わった初期の例として参考にしました。「絵文字と文字の決定的な違いは、文字には発音(読み)が対応していることにある」とかいう主張がさらっと書いてあるけど、鋭い指摘かも。ちなみに象形文字の具体的な説明もあるけどそこはほとんど読んでないです。

レトリック感覚 / 佐藤信夫

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

我々は普段から言葉を使って話したり書いたりしているわけだけど、言いたいことをなんて言えばいいかすぐ分かるかというとそうでもない。それは言葉というものが有限なのに対して、表現すべきことは無限に複雑だから。この本ではレトリックを、直喩・隠喩・換喩・堤喩・誇張法・列叙法・緩徐法、と分類して紹介しているけど、こうした表現技法はただ文章を飾ったりするという「普通の文章にプラスアルファする」ためにあるのではなくて、そもそも「伝えたいことを文章にすること自体」に必要だと主張している。「有限な言葉で無限のものごとを表現するには、その都度表現自体を創造する必要がある」とでも言うのかな。言葉の不思議についての興味が湧く本です。

科学哲学の冒険―サイエンスの目的と方法をさぐる / 戸田山和久

科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)

科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)

  • 作者:戸田山 和久
  • 発売日: 2005/01/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

科学って何なの?という疑問についての入門書の決定版(だと思う)。対話形式で書かれていて非常に読みやすい。科学って何なの?って問いは「知るって何なの?」とか「ただ一つの外部世界って存在するの?」みたいな問いと繋がっている。科学哲学についての基本的な論点を知るのに最適。ちなみに理系のリカちゃんと文系のテツオくんっていう学生の登場人物が出てくるんだけど、物分かりが良すぎて笑う。

構造主義科学論の冒険 / 池田清彦

構造主義科学論の冒険 (講談社学術文庫)

構造主義科学論の冒険 (講談社学術文庫)

この本は「科学哲学の冒険」の後に読むといいと思う。科学哲学の本であり、認識と言葉の関係についての本です。なおタイトルが「○○の冒険」と似てるのは多分偶然。この本の内容が私の授業で話した認識問題の話に一番近いと思う。実は外部世界が実在していると仮定しなくても科学(共通理解)は成立するんだ!っていう話です。授業ではあまり深入り出来なかったところまで書いてあります。昔の哲学者がどんなことを言ってきたのか、というまとめとして読んでもかなり良く出来ている。

超解読!はじめてのカント『純粋理性批判』 / 竹田青嗣

カントの「純粋理性批判」は名前ぐらいは聞いたことあるかな?認識の話をするとどんな本でも引用される本です。カントはそれまでの西洋哲学の総まとめかつ新スタートみたいな重要な位置にいるっぽくて、どうも避けて通りれないみたい。でも原著の日本語訳でもハードルが高すぎる(私にとっても)。なので、新書でざっくり解説してくれているこの本が助けになる…のだが、それにしてもまだ難しいと思う。他の本でカントが出てきてどうしてもそこをちゃんと分かりたい…という人にのみオススメ(私のことです)。

はじめての構造主義 / 橋爪大三郎

はじめての構造主義 (講談社現代新書)

はじめての構造主義 (講談社現代新書)

この本は、本当に「構造主義って何?」ということだけを説明した本なんだけど、本一冊使ってそれだけだってのが逆に凄いと思うのね。普通の本って色々なことを雑多に説明するものじゃないですか。もちろんこの本でも色々な話が出てきて、しかもそれらもかなり面白いんだけど、それらは最終的に一つの事を説明するために必須のパーツだけで構成されている。丹念に議論を積み重ねることで初めて見えるものがある、という学問の醍醐味が体験できる本です。

ソシュールの思想 / 丸山圭三郎

ソシュールの思想

ソシュールの思想

ソシュールの思想 (丸山圭三郎著作集 第I巻)

ソシュールの思想 (丸山圭三郎著作集 第I巻)

  • 発売日: 2014/03/26
  • メディア: 単行本

ソシュールという人は記号学の開祖です。なお記号論の開祖はパースですが、記号学記号論が何が違うのか未だに良く分からねえ。それはそうと、これはそのソシュールについての日本人による解説本です。ソシュールは元々言語学者で、ある言語(日本語とか英語とか)についての研究ではなく、「一般言語学」として、それらに共通する言語の特徴を研究していて、それが後に記号学と呼ばれるようになったようです。この本は日本人による解説だけど、ソシュール自身がまとまった本を出したわけではないのでかなり自力で読みとってまとめた本らしく、色んなところで引用される重要な文献です。…ということで私も読んでるんだけど、まだ道半ばなんだよね。

姑獲鳥の夏 / 京極夏彦

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

文庫版 姑獲鳥の夏 (講談社文庫)

タイトルは「うぶめのなつ」と読みます(読めないと検索できないし)。これは学術書じゃなくて小説。だけどそのテーマは「認識」。その人の世界はその人の認識するもので出来ている、ということがいろんな角度から語られる。なので、勉強目的で読んでも参考になると思います。分厚い本だけどメチャクチャ文章が読みやすいのでスラスラ読めると思う。しかしこのウンチクを語り出したら止まらない感じ、個人的には親近感湧くけど実際身近にいたらウザいタイプだろうなあ。