病原体の毒性の話

この章で最も面白いのは,ポール・イーワルドの「病原体の移動手段と病原体の毒力の関係」だ。人体には様々な病原体が感染して様々な病気を起こすが,症状の重篤さも種々様々であり,致死性のものからほとんど症状がないものまで千差万別である。似たような細菌なのに重篤度がまるで違うのはなぜだろうか。それに対しイーワルドは「病原体の移動手段」を3つに分けて説明したが,この説明が実に秀逸である。要するに,新しい宿主(=まだ病気にかかっていない人間)を見つけて移動するために,感染宿主が元気で動き回れる方が有利か,動けないほど弱らせた方が有利かの違いなのだ。

 そして,これを逆手にとると「病原体の移動手段を変えてやれば,毒力そのものも変化する」のだ。その実例として本書では1991年の南アメリカ大陸でのコレラ流行をあげているが,「梅毒の弱毒化」もその例かもしれない。梅毒菌は人間同士の接触がなければ移動できず,そのためには「感染した人間がいつまでも元気」な方が有利だからだ。同様の例は他の細菌感染やウイルス感染にも見られると思う。

この話面白そうだなあ。